現場の切実なニーズから生まれたプラットフォーム開発
- クライアント : 三菱商事株式会社 様
三菱商事株式会社: https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/
CARAVEL Hubティザーサイト:https://teaser.dev1.caravel-hub.mitsubishicorp.com/
海運物流業務のデジタル化を目指し、三菱商事株式会社(以下「MC」)から誕生したプラットフォーム「CARAVEL Hub」。発電所で使用される燃料(木質ペレット)の輸送における、商社・船会社・生産者・電力会社など多くのステークホルダーとのコミュニケーションや情報を集約するシステムとして、利用者の拡大をめざしています。今回インダストリー・ワン(以下「IO」)は、システム開発におけるPMO支援を提供しました。取り組みの詳細について、地球環境エネルギーグループ 石油ソリューション統括室 バイオマス燃料担当 マネージャー/田處様にお話をお伺いしました。
―――プロジェクトの立ち上げ背景についてお聞かせください。
この取り組みは2020年から始まりました。私は2018年から木質ペレットに関するコマーシャル・オペレーション業務に携わっていますが、当時の作業は非常にアナログでした。FAXや電話で情報を受け取り、それをExcelに落とし込んで、またメールで関係各所に展開するという伝書鳩の様な作業に多くの業務量を割いていました。業務を効率化したいという現場の切実なニーズから生まれたのがこのプラットフォームです。
―――ティザーサイトの「アナログからデジタルへ 現場の声から生まれたプラットフォーム」というキャッチフレーズの意味がよく理解できた気がします…。社外の関係者も同様の課題感があったのでしょうか?
社外のパートナー/顧客の担当者も同じ課題を抱えていました。船のオペレーションは情報の伝達が多段階ですので、必要な情報をシステム上で共有できれば業務を効率化できると考えました。この考え方がパートナー/顧客とも一致していたので、我々がプラットフォームを開発すれば、周りも導入してくれるだろうと確信していました。
―――MC独自でプラットフォームを開発する取り組みは珍しいですよね。
確かにそうですね。今回のケースの様に、「全てのステークホルダーにメリットがある。だから、関係各社と共同開発する」という安易な図式化はシステム開発難度が上がるだけと思います。これは商流やバリューチェーンの最適化を検討する際に共通する課題で、よくある話だと思うのですが、各社にとっての利益・必要な要件が異なる中で、どこまで関係者を巻き込むのかという検討には時間を要します。本プラットフォームでは、立ち上げ時にそこの議論に時間を掛けて、最終的には我々自身がメリットを享受するために、MC独自に開発を進める形にしました。
また、プラットフォーム化する際には注意点があります。それは、顧客との接地面が減るということです。システム化すると、顧客との接地面が減ってしまうため、従来のようにコミュニケーションを通じた調整や個人的な関係構築ができなくなるという指摘もあります。そういった事を重要視する商材があることも理解しており、一様に全ての商材にこのプラットフォームを適応するのは難しいと考えています。ただ、木質ペレットのように顧客や販路が固定されており、繰り返し作業が多い商材はデジタル化を進める対象として適していると考えました。
―――プラットフォームの開発はどのように行われたのでしょうか。
まず、チーム内で効果検証を行いました。その結果、4–5人で対応していた配船業務が2–3人でも対応可能になることが分かり、開発プロジェクトを本格化しようという話になりました。
しかし、最初に社内で提案した際には、「石炭や小麦など大規模な商材と違って、木質ペレットはニッチな商材なので、収益規模や横展開の観点で難しい」という理由で差し戻されてしまいました。それでも、この非効率な業務を永久的に続けるのは厳しいと感じていたため、諦めずに検討を続けました。この頃からIOにはアイデアの壁打ち相手になってもらい、同時にMC社内研修(MC Innovation Lab、MIL)を通じてMVP(Minimum Viable Product)を自作しました。
結果、社内からの協力も得られて2022年にようやく社内承認を得ることができました。そこから話が広がり、今では木質ペレットに限定せず、ばら積み貨物船のオペレーションに広く使えるプラットフォームを目指す形でプロジェクトが本格化しました。プロジェクトが立ち上がってからは、IOにPMOとしての役割を担ってもらい、今年2024年にローンチすることができました。
―――IOの支援の中で印象的なエピソードを教えてください。
IOには良い意味で当初の建付から外れて支援してもらい、非常に助かっています。このプロジェクトは組織としてのトップダウンではなく、当社営業部主導で始まったものです。そのためシステム開発に関する知見やリソースが不足していました。システム開発の工程も見たことがなければ、実務者・マネジメントともに理解も足りておらず、プロジェクトをどのように進めるべきか悩んでいました。IOには当初、非機能領域における業務支援を依頼していたのですが、現在は本プロジェクトのまとめ役として活躍いただいています。システム開発に関する知見が豊富で、的確なガイドをしてくださるおかげで、開発工程においては抜け漏れの無いプロジェクトマネジメントが出来ていると考えています。システム開発以降でも、今後の事業化に向けて、マネタイズ方法やサービスの普及方法に関するアイデア出しまで幅広くサポートいただいています。
―――将来的にこのプラットフォームを通じて実現したいことは何でしょうか。
正直なところ、直近で大きなビジョンを掲げているわけではありません。業界共通のプラットフォームに成長できれば理想的ではありますが、それを直接めざしているわけではないです。私たちが最も大切にしているのは、顧客と自分達の担当者の業務がより楽になること。そのためには、費用対効果だけでなく、ユーザーインターフェースを突き詰め、誰もが使いやすく、導入した際に明確なメリットをシステムに触る担当者が感じられるプラットフォームを作ることが第一優先です。
この基盤が整えば、パートナー/顧客だけでなく、場合によっては競合他社にも価値を提供できると思います。同じような業務を行い、共通の課題を抱える人たちにとって便利なサービスに成長し、業界全体に広まった結果としての収益化の可能性があると考えていますし、それが最終的な目標です。
また、業務の観点から見ると、今回の取り組みはあくまで「デジタイゼーション」に留まっており、情報がやっとデジタル化された段階です。このプラットフォームの上に、船会社や電力会社など個社ごとの課題を解決するためのアプリケーションを、個社が自身で開発していくことで、さらに大きなプラットフォームへと進化していけば良いなと考えています。CARAVEL Hubが業界全体の基盤となることをめざし、取組を進めていきたいと思います。
―――今後IOに期待することを教えてください。
引き続き、システム開発プロジェクトではPMOとして支援をお願いしたいと考えています。加えてこのプラットフォームのマネタイズをめざすのか、普及を優先するのか、またはスタンドアロンで運用をするのかといった様々な選択肢がある中で、IOの皆様と一緒にベストな解決策を導いていきたいです。
例えば、マネタイズをめざす場合、私たちはシステムを販売した経験がなく、どのように進めるべきか分からないことも多く、事業方針策定支援や、その後のフォローアップも含めてお願いしたいと考えています。IOの専門的な知見に期待しています。
―――CARAVEL Hubの発展に向けて、引き続きIOが支援いたします。ありがとうございました!