デザイン思考で未来を拓く教育の新たな形/渋谷区教育委員会×インダストリー・ワン対談
- クライアント : 渋谷区教育委員会 様
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インダストリー・ワン(以下「IO」)のDesign事業部ではデザインコンサルやUIUXデザイン、ブランディングをオファリングメニューとし、数多くの案件を支援しています。そのメニューの一つに当社独自のデザインキットを使った「やって・見て・分かるワークショップ」があります。デザイン思考を通じて身近な問題点に「気づき」、解決する能力を養うプログラムです。今回は「シブヤ未来科*」に取り組む渋谷区教育員会の教職員の皆様にワークショップを開催させていただきました。取り組みの詳細や、現代に必要とされている教育について渋谷区教育委員会事務局教育指導課 指導主事/柳田様と、ワークショップのプログラム考案者である当社Design事業部長/梅澤が対談を実施しました。
(*渋谷区では「つくろう。ちがいを活かし合える、未来の学校」という教育目標ものと、探究「シブヤ未来科」に取り組んでいます)
―――ではまず梅澤さんにお聞きします。当社の事業はDXコンサルティングを主軸としており、一般企業向けの支援が多いですよね。そういった環境の中で教育現場にデザイン思考ワークショップの提供をはじめたきっかけを教えてください。
梅澤:デザイン思考は、これまで「人間中心デザイン」の物作りのために様々な企業に取り入れられてきましたが、一定デザイン思考が浸透してきた中で、これからは「人間中心デザイン」から、より「自分らしいデザイン」が必要になってきます。私たちの身の回りではデジタルサービスが普及し、利便性やユーザー体験の品質が向上しています。そのような時代に生きる子どもたちにとって、今後は本来自分が成し遂げたいことを探究し、それを実現するために発想し、行動する力が必要になると考えています。そんな将来を担う子どもたちに「自分らしさ」を追求することや表現することを学んで欲しいと考え、教育現場へデザイン思考ワークショップを提供することを考えました。
「DXコンサルティング」を主軸としている当社ですが、「D:デジタル」は手段であり、本質は「X:変革」だと考えています。私は、教育現場における人の在り方や、教育そのものの変革は社会課題解決の1つであると考えています。これまでの教育の中に、デザイン思考の本質である、「身近な違和感に気づく力」、「手を動かしながら考える力」、「早めに小さな失敗を繰り返す力」を取り入れたいと考えています。
―――教育の現場に提供したいワークショップはどのようなものでしょうか。
梅澤:私たちが提供したいのは従来の教育アプローチとは異なる、新しい学びの形です。従来の教育では、決まったやり方を大人が子どもに教えることが主でしたが、私たちが目指すのは子どもが自ら考えた課題やアイデアに対し、大人がそれを育む教育の在り方です。つい大人は、子どもの考えたアイデアや発言に対し、『それはもう世の中にあるよね』という「良い悪いの評価」をしがちですが、「なぜそれを思いついたのか」「その発想の根底にあるものは何なのか」と、大人が深ぼってあげることによって、子どもと大人のコラボレーションを生むことができます。このように、子どもたちのちょっとした気づきを否定せず、広げて育てる、「一緒に考える」教育のあり方を実現することが私たちの目標です。デザイン思考には「共感」や「問題定義」のプロセスが存在するため、この教育を実現する最適な手段であると考えています。
また、当社のワークショップは、前述の大人と子どものコラボレーションのあり方を実現するために、「絵を描くこと」を主軸とした設計になっています。絵は、個々の観点や発想が誰にでも分かる形で伝わるパワーがあります。上手い下手は関係なく、その絵を中心に大人も子どももフラットな目線で議論ができるようになります。
柳田:絵を描くという行為は良いポイントだと思います。絵は意外と子どもの方が上手かったりして…言葉だけだとどうしても子どもは大人に負けてしまう。表現力が豊なのに語彙力が追いついて来ないんですよね。
梅澤:子どもが言葉で意見を伝えると、大人は真剣に捉えない傾向がありますよね。それが、絵を中心に議論をすると、「この表現の裏にはそんな深い考えがあったんだ」「こんな細かいことに気づいたんだ」と、大人が子どもの視点に感動することがあります。
―――続きまして、柳田さんにお話を伺いたいのですが、今回は子どもたち向けにご提案したワークショップを、あえて教員の皆様に開催されていましたね。
柳田:そうですね。子どもたち対象のワークショップという案内をいただきましたが、まずは教員が一人の人間として楽しみながら学ぶ機会を提供したいと思ったんです。プログラムの内容としては、デザイン思考や探究のコンセプトが渋谷区の目指す方向性と非常に似ていると感じました。ただ、教員側はどうしても子どもに学ばせることを優先しがちで、自分自身の学びや楽しみが後回しになる傾向があります。探究のコンセプトやその面白さを理解するためには、率先して自身が楽しむことが大切だと考えました。今回のワークショップは、子どもたちにどう教えるのかではなく、教員が自身で探究の楽しさを体験することで、より良い教育を提供するきっかけになればと考え、このワークショップを開催しました。
―――ワークショップを実施してみていかがでしたか。
柳田:今回のワークショップの狙いであった「教員自らが一人の人間として体験をする」という目的は、十分に達成できたと感じています。生き生きとした表情でディスカッションや課題に取り組んでいた姿が非常に印象的でした。また、ワークショップを通じて、今後子どもたちがどのように思考を深めていくか、どう問いをもたせればよいかという点でも、大きなヒントを得ることができたと思います。
先生方から、「このプログラムをぜひ子どもたちにも体験させたい」という声が多く寄せられました。最初は、活動の意図がつかめず戸惑っていた部分もあったようですが、進めるにつれてどんどん楽しさを実感し、気持ちが乗ってくる様子が見られました。
―――高く評価いただきありがとうございます。ワークショップの体験が少しでも教育現場で活かせると嬉しいです。
柳田:教育現場に活かせる機会は大きく二つあると考えています。
まず一つ目は、デザイン思考やワークショップの手法・考え方を、学校の授業に直接取り入れることです。特に渋谷区の探究学習においては、子どもたち一人一人が自分の課題を立て、それをどう解決するかを考え、さらには地域や社会にアクションを起こす「My探究」と呼ばれる取り組みがあります。この過程で、子どもたちが自分で問いを立てられるようにすることが重要ですが、何から問いを見つければいいのかわからない子どもたちも多いです。そこで、日常の困りごとから問いを見つけるというアプローチは非常に有効だと思います。既に自分の好きなものや社会のニーズから問いを立てる取り組みはありますが、困りごとを出発点にすることで、より多くの子どもが問いを見つけやすくなるはずです。視点を変えることで、これまで問いが立てられなかった子どもたちも、自分なりの問いをもつことができるようになると感じます。
二つ目は、教員自身がワークショップで体験したことを、子どもたちの探究をサポートする際に活かせる点です。教員たちは自分で問いを作り、課題を解決するためのプロセスを実際に体験し、他の教員と協力して考えるという経験をしました。教員自身がこうした体験をする機会は、普段の教育現場ではあまり多くありません。今回のワークショップを通して教員が子どもたちに探究のプロセスを教える上で非常に良いきっかけとなったと思っています。
梅澤:柳田さんのお話を聞いて、渋谷区の教育方針に改めて共感いたしました。子どもたちは多様な情報にアクセスし、自分の興味や関心を見つけることがますます容易になっています。自分が好きなこと、やってみたいことを発見し、それをベースに自分らしさを築いていく。それを当社がサポートできれば、非常に有意義だと感じています。
私たちが行うワークショップは、子どもたちが自分の興味に基づいて自発的に行動し、何度も挑戦し続けられるようになることを目指しています。教えられたことをそのまま実行するだけでなく、自分で考え、行動する力を育てていくことが、これからの時代には必要とされていると感じます。
―――最後に、渋谷区教育委員会としての今後の展望について教えてください。
柳田:探究学習において強化していきたいのは、まさに子どもたちの主体性や自己調整力をさらに伸ばしていけるような活動を各幼稚園・小中学校で展開していくことです。そのためには先生方への研修を充実させることが重要ですが、もう一歩進んで、地域や企業との連携を強化していきたいと考えています。
現在、地元企業や地域の方々、日本全国で名の知れた企業様とも協力し、さまざまなプロジェクトに取り組んでいます。しかし、どうしても「大人が教え、子どもが学ぶ」という固定的な関係性から抜け出せない部分があるのが現状です。もちろん、大人が子どもに教える場面は必要ですが、今後は子どもたちが企業やNPO、地域社会とフラットな立場で協力し、共同でプロジェクトを進めたり、より良いものを一緒に創り上げたりする事例を増やしていきたいと思っています。そうした取り組みが、学校現場で日常的に行われるような未来を描いています。その実現に向けて、今後何ができるかを考えていきたいです。
子どもたちは素晴らしいアイデアと高い考察力をもっています。重要なポイントは大人がその力を信じ、サポートできるかという点です。その為には適切なモチベーションを与えることが大切ですが、その手段の一つが、今回提供いただいたインダストリー・ワンさんのワークショップなのかなと感じます。今後はワークショップで学んだことを子どもたちが実際に活用できる場や機会を提供していただけるとありがたいです。中期的な視点で、伴走していただくことで、子どもたちが一層学びに夢中になれると期待しています。